今から12年も前になるでしょうか、僕が学生だった頃のとある夏休み。お金を貯めるべく、地味でありきたりなアルバイトをしていました。職場までの道のりは自転車で40分程。その年は記録的な猛暑で、陽射しが最も降り注ぐ正午過ぎ、毎日汗だくになりながらペダルを漕ぎ進めます。いつも決まってヘッドフォンから聴こえてくるのは日本のバンド、Zeppet Storeの「716」というアルバム。全編英語詩で歌われる優しく、そして儚くも芯のあるヴォーカルのメロディ。シンプルで飾らないバンドサウンド。ときに切なく爪弾くアコースティックギターの音色。取り立ててスポットを当てる存在ではなかった一介の学生の、暑い夏の午後にただただアルバイトをしているという僕の物語に色を添えてくれるような、映画の中に誘ってくれるような響きを持っていました。そのときの心模様に応じて、しっかりと寄り添ってくれる音楽。直接的な言葉に励まされたりするのではないその心地良さ。音楽は、自分という映画のサウンドトラックになってくれる、そう気づかせてくれた作品、そして日々でした。
たくさんの人、そしてさまざまな縁に恵まれ、Zeppet Storeの木村世治さんが当店にてアコースティック・ライヴを開催してくれる運びとなりました。木村さんには上記の僕の話をさせて頂き、その上で、来場して頂くたくさんの方それぞれの物語に寄り添ってくれるような音楽、「日常のサウンドトラック」というテーマで演奏してもらえるようお願いしています。3月19日、その日は木村世治さんの音楽に触れる特別な日になるかもしれませんし、そこからさらに続く普遍的な日々のための、あなたの「日常のサウンドトラック」になるような音楽を見つける日になったら。そう願っています。
SOUNTRA COFFEE AND MUSIC